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トカゲの卵胞うっ滞
爬虫類における産卵トラブルは、爬虫類を飼育している人の多くは経験する病気だと思います。我々エキゾチックアニマルを扱う臨床獣医師にとっても比較的良く遭遇する疾患です。
中でも、トカゲ類とカメ類では、成熟した卵胞が排卵されずに留まってしまう状態を卵胞うっ滞と呼びます。
今回はそんなトカゲ類における卵胞うっ滞について獣医師が解説します。
1:ペットにおけるトカゲ
近年、日本における爬虫類飼育の需要は増加しているとされています。
環境省よりこんなデータが発表されています。(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/tekisei/h29_10/mat02_02.pdf)
・2016年を起点に徐々に爬虫類の生体輸入量が増加している。
・カメ目は減少傾向にあり、代わりにトカゲ亜目やヘビ目は増加し続けている。
・トカゲ亜目は2018年から爬虫類の中で最も輸入量が多く、2021年は2016年の3倍ほどとなっている。
・WWFの2017年爬虫類市場調査ではトカゲ亜目(43%)、カメ目(28%)、ヘビ目(24%)であった。
・アニコム「家庭どうぶつ白書2021」より、飼育されている爬虫類の中では71.1%がヒョウモントカゲモドキで、18.9%がフトアゴヒゲトカゲであった。
とされています。これは特定の企業の統計なので、日本における爬虫類飼育のすべてを反映しているわけではないと思いますが、日々診療を行っていても同様の印象を
受けます。
これらのデータからも、日本におけるトカゲ類の人気が伺われます。
2:トカゲの繁殖生理・解剖
ほとんどのトカゲは卵生(卵を産んで、卵の中である程度発育してから孵化する方法)です。トカゲの雌性生殖器は一対の卵巣と卵管を持っています。卵巣はブドウの房状をしており、大体腎臓と同じような位置(腰部背側)にあることがほとんどです。卵巣には卵管が伸びており、卵巣から排卵された成熟卵胞は、卵管を通って総排泄腔より排卵されます。卵管では卵殻基質(いわゆる白身)や卵殻を形成し、総排泄腔へ送り届ける輸送路の役割を担っています。
トカゲの種類にもよりますが、現在本邦で飼育されているトカゲで数の多いヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲは11月から12月頃から発情が始まることが多いです。交配後約1-2カ月程度で産卵することが多いようです。飼育されている爬虫類は、単独飼育を行っていることが多く、交配するチャンスが無いこともありますが、多くのトカゲで無精卵を生む可能性があることが言われています。冬頃に突然お腹が膨れてきて、元気があるのに食欲が落ちてくるようであれば、卵を持っている可能性があります。
3:卵胞うっ滞とは
3-1:病態
卵胞うっ滞とはいわゆる卵詰まりの一種とされており、「卵巣にある発育した卵胞が卵管に移動せずに卵巣にとどまってしまっている状態」を指します。臨床症状がある子もいれば、ない子もいます。通常は排卵されない卵胞はそのまま吸収されてしまいますが、排卵もされず、吸収もされない場合は卵胞うっ滞となります。20241016_061923104_iOS.heic
3-2:原因
卵胞うっ滞の原因は完全には解明されていないと言われています。一般的には不適切な飼育や食事などによるストレス、交配相手の存在、など多因子性と言われています。
卵胞が吸収されず残ってしまった場合、卵巣と卵胞の長期的な炎症が高頻度で起こることが知られています。これは爬虫類が持っているサルモネラ菌が(Sallmonella spp、)感染することも知られています。炎症が起こっている卵胞は時に体内で破れることによって、卵黄が体腔内に漏れ出ることがあります。これにより腹膜炎を起こすことがあり(卵黄性腹膜炎)、卵黄のビテリンというタンパク質はとても刺激性が強く、腹膜炎は重症化しやすいです。
この卵黄性腹膜炎は運動や無理な触診によっても引き起こされます。
3-3:診断
症状やその個体の病歴、身体検査などから推測をすることがほとんどです。
症状は、卵胞うっ滞特異的なものはあまりありません。多くの場合、食欲不振、腹部膨満(お腹が腫れている)、傾眠などが挙げられます。
実施する検査としては、血液検査・Xレントゲン検査・超音波検査を実施します。
血液検査:文献ではアルブミン、カルシウム、リン、トリグリセリドが上昇する
ことが多いとのことでした。
経験的にはグロブリンも高値を示すことがあります。
食べれていない時間が長いと肝リピドーシスに陥ります。そのため、
肝臓の数値が上昇していたり、コレステロール値や中性脂肪の値が
高くなることがあります。
レントゲン検査:特に異常所見は認められません。
超音波検査:腹腔内に成熟した卵胞が認められます。
3-4:治療
通常は、重篤な症状が認められない症例では食事療法や飼育の見直しによって産卵が正常に進むかを見ていきます。正常なトカゲでも1-2か月は卵を持っていることが多いので、経過は長く観察していくことが多いです。正常に産卵されることもあれば、卵巣が退縮していくこともあります。
重篤な症状の場合、外科手術による卵巣卵管摘出術のみとなっています。
ただ、外科手術の場合そのまま亡くなってしまうリスクもあります。当院では、分院長の芝﨑を中心として、卵胞うっ滞の内科治療を試みております。まだまだ症例数も少なく適応も不明な部分が多いですが、興味のある方がいらっしゃったらぜひ当院までご連絡ください。
3-5:予後
手術によって比較的良好な経過をたどりますが、体腔炎などが起きている場合は積極的な支持療法(点滴や注射、強制給餌など)とともに外科手術を実施しないと予後が悪いことが知られています。
4:まとめ
・近年エキゾチックペットの需要は増えており、爬虫類ではトカゲの飼育数が多いとデータがあります。
・卵胞うっ滞は比較的よくある病気ですが、不明な点も多いです。
・検査は、卵胞を持っている以外に問題ないことを確認します。
・有効な治療は今のところ外科手術のみです。
・命の危険にかかわる病気でもあるので注意が必要です。
・環境ストレスがかかわっている可能性が高いので環境を整えてあげましょう。
わからない場合は動物病院や信頼できるペットショップさんに連絡してみてください。
中でも、トカゲ類とカメ類では、成熟した卵胞が排卵されずに留まってしまう状態を卵胞うっ滞と呼びます。
今回はそんなトカゲ類における卵胞うっ滞について獣医師が解説します。
1:ペットにおけるトカゲ
近年、日本における爬虫類飼育の需要は増加しているとされています。
環境省よりこんなデータが発表されています。(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/tekisei/h29_10/mat02_02.pdf)
・2016年を起点に徐々に爬虫類の生体輸入量が増加している。
・カメ目は減少傾向にあり、代わりにトカゲ亜目やヘビ目は増加し続けている。
・トカゲ亜目は2018年から爬虫類の中で最も輸入量が多く、2021年は2016年の3倍ほどとなっている。
・WWFの2017年爬虫類市場調査ではトカゲ亜目(43%)、カメ目(28%)、ヘビ目(24%)であった。
・アニコム「家庭どうぶつ白書2021」より、飼育されている爬虫類の中では71.1%がヒョウモントカゲモドキで、18.9%がフトアゴヒゲトカゲであった。
とされています。これは特定の企業の統計なので、日本における爬虫類飼育のすべてを反映しているわけではないと思いますが、日々診療を行っていても同様の印象を
受けます。
これらのデータからも、日本におけるトカゲ類の人気が伺われます。
2:トカゲの繁殖生理・解剖
ほとんどのトカゲは卵生(卵を産んで、卵の中である程度発育してから孵化する方法)です。トカゲの雌性生殖器は一対の卵巣と卵管を持っています。卵巣はブドウの房状をしており、大体腎臓と同じような位置(腰部背側)にあることがほとんどです。卵巣には卵管が伸びており、卵巣から排卵された成熟卵胞は、卵管を通って総排泄腔より排卵されます。卵管では卵殻基質(いわゆる白身)や卵殻を形成し、総排泄腔へ送り届ける輸送路の役割を担っています。
トカゲの種類にもよりますが、現在本邦で飼育されているトカゲで数の多いヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲは11月から12月頃から発情が始まることが多いです。交配後約1-2カ月程度で産卵することが多いようです。飼育されている爬虫類は、単独飼育を行っていることが多く、交配するチャンスが無いこともありますが、多くのトカゲで無精卵を生む可能性があることが言われています。冬頃に突然お腹が膨れてきて、元気があるのに食欲が落ちてくるようであれば、卵を持っている可能性があります。
3:卵胞うっ滞とは
3-1:病態
卵胞うっ滞とはいわゆる卵詰まりの一種とされており、「卵巣にある発育した卵胞が卵管に移動せずに卵巣にとどまってしまっている状態」を指します。臨床症状がある子もいれば、ない子もいます。通常は排卵されない卵胞はそのまま吸収されてしまいますが、排卵もされず、吸収もされない場合は卵胞うっ滞となります。20241016_061923104_iOS.heic
3-2:原因
卵胞うっ滞の原因は完全には解明されていないと言われています。一般的には不適切な飼育や食事などによるストレス、交配相手の存在、など多因子性と言われています。
卵胞が吸収されず残ってしまった場合、卵巣と卵胞の長期的な炎症が高頻度で起こることが知られています。これは爬虫類が持っているサルモネラ菌が(Sallmonella spp、)感染することも知られています。炎症が起こっている卵胞は時に体内で破れることによって、卵黄が体腔内に漏れ出ることがあります。これにより腹膜炎を起こすことがあり(卵黄性腹膜炎)、卵黄のビテリンというタンパク質はとても刺激性が強く、腹膜炎は重症化しやすいです。
この卵黄性腹膜炎は運動や無理な触診によっても引き起こされます。
3-3:診断
症状やその個体の病歴、身体検査などから推測をすることがほとんどです。
症状は、卵胞うっ滞特異的なものはあまりありません。多くの場合、食欲不振、腹部膨満(お腹が腫れている)、傾眠などが挙げられます。
実施する検査としては、血液検査・Xレントゲン検査・超音波検査を実施します。
血液検査:文献ではアルブミン、カルシウム、リン、トリグリセリドが上昇する
ことが多いとのことでした。
経験的にはグロブリンも高値を示すことがあります。
食べれていない時間が長いと肝リピドーシスに陥ります。そのため、
肝臓の数値が上昇していたり、コレステロール値や中性脂肪の値が
高くなることがあります。
レントゲン検査:特に異常所見は認められません。
超音波検査:腹腔内に成熟した卵胞が認められます。
3-4:治療
通常は、重篤な症状が認められない症例では食事療法や飼育の見直しによって産卵が正常に進むかを見ていきます。正常なトカゲでも1-2か月は卵を持っていることが多いので、経過は長く観察していくことが多いです。正常に産卵されることもあれば、卵巣が退縮していくこともあります。
重篤な症状の場合、外科手術による卵巣卵管摘出術のみとなっています。
ただ、外科手術の場合そのまま亡くなってしまうリスクもあります。当院では、分院長の芝﨑を中心として、卵胞うっ滞の内科治療を試みております。まだまだ症例数も少なく適応も不明な部分が多いですが、興味のある方がいらっしゃったらぜひ当院までご連絡ください。
3-5:予後
手術によって比較的良好な経過をたどりますが、体腔炎などが起きている場合は積極的な支持療法(点滴や注射、強制給餌など)とともに外科手術を実施しないと予後が悪いことが知られています。
4:まとめ
・近年エキゾチックペットの需要は増えており、爬虫類ではトカゲの飼育数が多いとデータがあります。
・卵胞うっ滞は比較的よくある病気ですが、不明な点も多いです。
・検査は、卵胞を持っている以外に問題ないことを確認します。
・有効な治療は今のところ外科手術のみです。
・命の危険にかかわる病気でもあるので注意が必要です。
・環境ストレスがかかわっている可能性が高いので環境を整えてあげましょう。
わからない場合は動物病院や信頼できるペットショップさんに連絡してみてください。