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動物別症例集 8ページ目

フトアゴヒゲトカゲの全身性微胞子虫症

微胞子虫とは、体の細胞内に寄生する微小な病原体で、分類学上は真菌(カビなど)に近い種類とされています。

フトアゴヒゲトカゲではこの微胞子虫が全身の臓器に感染し、死に至ることがあります。

微胞子虫の仲間でエンセファリトゾーンと呼ばれる種の仲間には、ウサギに対する病原性がよく知られています。
しかし爬虫類の微胞子虫症は、その病態や感染経路、人への感染性などの多くが良く分かっていません。

生前の診断法も確立はしていませんが、食欲低下、痩せてきた、元気がない、できものがあるなどの症状がみられた場合、この病気の可能性も考える必要があります。

治療は他の動物のデータに基づいた駆虫薬の投薬になりますが、爬虫類において、治療効果に対する報告はありません。
基本的に健康な個体には発症しにくい病気なので、生活環境を適切に整えて体調の悪化を避け、発症を予防することが重要になると思われます。

また、微胞子虫症は免疫低下状態の人への感染も報告があります。
適切な排泄物の処理や、触ったら手を洗う、過剰なスキンシップは避けるなど、基本的な衛生管理を徹底しましょう。


モルモットの乳腺腫瘍

モルモットの乳腺は、オスメスとも下腹部に左右1対存在します。

モルモットの乳腺腫瘍は、オスにもできるので注意が必要です。オスの方がより多いという報告もあります。
これは、殆どがメスにできる他の動物と違った特徴です。

約3割が悪性と言われていますが、報告によっては悪性の方が多いともされるため、発見された場合は積極的な外科摘出が推奨されます。


良性悪性ともに完全に切除できれば、完治しますが、発見が遅れると肺など他の臓器に転移する恐れがあります。
化学療法(抗癌剤)は確立されていません。


鳥の疥癬(かいせん)症・ヒゼンダニ症

疥癬(かいせん)とは、ヒゼンダニとも呼ばれ、動物の皮膚の中に住むダニをいいます。
飼育鳥の中では、セキセイインコにこのダニによる皮膚病がしばしば認められる他、ブンチョウにも認められます。

脚や口の周り、ろう膜のかさつき(軽石用の皮膚病変)として認められ、徐々に広がっていきます。
皮膚の一部を採取し、顕微鏡で見ることでダニを検出しますが、まれに見つからない場合もあるため、特徴的な症状から、試験的に駆虫することもあります。

感染していても症状が認められないこともあり、何らかの原因で免疫力が低下して初めて発症するケースもあります。
また、鳥同士の接触で感染が広がるため、同居の鳥がいる場合には一緒に駆虫する必要があります。

治療は駆虫薬を皮膚に垂らして行います。1回で卵まで駆除しきれないため、2週間毎に4回程度の投薬を行っています。


ハムスターの頬袋脱

ハムスターには大きく広がる頬袋が左右1つずつあります。この中に食べ物や床材を入れて運ぶのですが、たまにこの頬袋が反転し、口から飛び出したままになってしまうことがあります。

ハムスター全般でみられますが、ジャンガリアン・キャンベルに多くみられます。

原因は、頬袋の損傷・感染、腫瘍などのほか、内側に張り付いた床材をとろうとして、飛び出してしまう場合もあります。
炎症が少ない場合や単純な脱出のみであれば、比較的容易に戻すことは可能ですが、腫瘍や重度の炎症を伴う場合、時間が経って壊死してしまっている場合などは切除手術が必要となります。


また、頬袋は予想以上に大きく、前足のところまでものを詰め込むことが可能です。
ものによっては詰め込み過ぎて中で詰まってしまい、頬袋の中で腐敗してしまうこともあるので、注意が必要です。


猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫コロナウイルスにより引き起こされる、致死率の非常に高い病気です。
猫コロナウイルスは本来病原性が高いウイルスではありませんが、強いストレスなどにより体内で突然変異を起こし、致死性のウイルスに変わります。

若齢または高齢の猫の発症が多くみられ、比較的純血種に多いです。

FIPには、二つのタイプがあります。どちらも元気や食欲が低下し、徐々に衰弱していきます。
・ウェットタイプ・・・腹水や胸水が貯留します。腹水では腹囲膨満、胸水では呼吸異常が見られることが多いです。
・ドライタイプ・・・体内に腫瘍を形成します。症状に乏しい事が多いですが、目の内部の炎症から発見されることがあります。

検査は、特徴的な症状と血液検査・遺伝子検査などを組み合わせて行います。

治療法は確立されていません。
高齢猫において、ステロイドの高用量投与や、インターフェロンという免疫調整作用のある注射を定期的に打つことで、症状の改善が見られたという報告があります。

健康診断の一環として、コロナウイルスの感染の強さを調べることができます。通常は複数回血液検査を行い、高い値が続くようなら、リスクがある子として考えていきます(FIPを引き起こすタイプかまではわかりません)。

多頭飼いなどのストレスが発症の原因の一つと言われていますので、高リスクの子はストレスをなるべくかけない飼育を心掛けるほか、他の猫たちとの接し方にも注意をお話しています。


ウサギの子宮疾患

ウサギは非常に子宮疾患が多い動物で、5歳以上のメスのウサギの約60%が子宮疾患になると言われています。

子宮内膜増殖症や腺癌が多く、その他にも子宮蓄膿症や子宮水腫など多様な病態が認められます。
子宮腺癌では、対応が遅れると肺や肝臓へ転移し、亡くなってしまいます。
また癌でなくても、出血多量を起こして命に関わることもあります。

症状としては陰部からの出血で発見されることが多いですが、ウサギの尿は正常でも色素により赤い場合があるため注意が必要です。
また、ウサギはなかなか体調の変化を表に出さないので、発見した時にはかなり病態が進んでしまっていることも珍しくありません。

子宮疾患は避妊手術により予防できます。
ウサギの麻酔はリスクが高いという話もありますが、前述のように、メスのウサギはそれ以上の高率で子宮疾患になります。
今はウサギの麻酔も進歩しており、麻酔を安全に行う専用の道具も開発されています。

健康な若いうちに、なるべく早期の避妊手術をオススメします。


ヨツユビハリネズミの疥癬(ダニ)

最近は減りつつありますが、ハリネズミの皮膚病の原因として多いのがこのダニの感染症です。

布団やカーペットにいるダニとは違う種類で、基本的にはハリネズミ同士の接触で感染します。
また、何らかの病気で免疫力が低下すると潜んでいたダニが活動を始め、発症する場合もあるので、要注意です。

症状は、フケとかゆみがメインになります。あまりに感染数が多ければ、肉眼でもフケの中に動いているダニを確認することができます。

診断は、拡大鏡や皮膚の掻爬検査で成体や卵を検出することで確定します。検査で見つからなくても否定しきれないので、他の治療に効果がない時には試験的にダニの治療を行うこともあります。

治療は、犬猫用のダニのスポット製剤を、2週間毎に計4回使って駆虫します。
反応が悪ければ注射薬を使用する場合もあります。


ウサギの不整咬合

ウサギに最も多い病気の一つが、歯に関連する問題です。
ウサギの歯はすべて常生歯(一生伸び続ける歯)であり、通常は食事の際にほどよくすり減り、ちょうどよい長さを保っています。
しかし噛み合わせが悪い、いわゆる「不整咬合」になると、上手くすり減らずに不適切な方向に曲がって伸びてしまいます。

来院理由で一番多いのは、臼歯(奥歯)が棘のように伸びて口の中に刺さってしまい、痛くて食べられない状態です。食べ物の好みの変化や、よだれ、歯ぎしりなどが主な症状です。重症の場合は、痛みと食べられないことにより腸が動かなくなり、急性の胃拡張が起きて命に関わる場合もあります。

また、白い目ヤニが多くなったり(鼻涙管閉塞)、口周りに膿が溜まって腫れてくる(歯根膿瘍)といった症状も、主に不整咬合に関連しており、これらの病気は一度なってしまうと治療が困難なことが多いです。

以下に、歯のトラブルの原因・予防・治療法を簡単にまとめました。

【切歯(前歯)】
○原因
生まれつき噛み合わせが悪い(特にネザーランドドワーフに多い)。ケージなど硬いものを齧ることが原因の事も多い。
○予防
ケージなどを噛ませないこと。かじり木はものによっては悪影響になる場合も。
○治療
軽度なものでは歯切りで強制することもあるが、定期的な歯切りが必要になる子が多い。

【臼歯(奥歯)】
○原因
牧草(繊維)の摂取不足が主な原因。遺伝的になりやすい子や、切歯の不整咬合から派生する場合もある。
○予防
牧草をしっかり食べてもらうことが最大の予防法。繊維の硬く、栄養バランスのよい「チモシー1番刈り」が推奨される。
アルファルファなどは成兎には栄養バランスが悪く、同じチモシーでも3番刈りになると繊維質が減るのであまり好ましくないと言われている。また、ハードタイプのペレットは、奥歯で砕く時に歯根に負担がかかるため、現在では推奨されていない。
○治療
定期的な歯切り。軽度であれば無麻酔で行うこともあるが、重度な場合は全身麻酔をかけての処置が必要。


モルモットやチンチラなど、ウサギと同じように完全草食の動物は、ウサギと同様に歯のトラブルが多くみられるので、注意が必要です。


デグーの尾抜け・尾切れ

デグーは尻尾が切れやすい動物で、不慮の事故による尻尾のトラブルが多くみられます。

特に尻尾の皮膚が裂けて中がむき出しになってしまう事故が多く、尾をつかんだり、どこかに引っ掛けたりすることで簡単に起きてしまいます。

この状態では細菌感染を起こしやすいので、抗生物質の治療が推奨されます。
1~2週間程度で乾燥して収縮していくこともありますが、自分で齧ってしまったり、感染を起こしてしまうようであれば、断尾の手術が必要になります。

同じような事故がシマリスにも起こりやすいため、これらの動物の尻尾はつかまないようにします。
また、尻尾でバランスをとっているとも言われていますので、尻尾が短くなってしまった子は落下事故にも気を付けましょう。


セキセイインコのマクロラブダス(AGY/メガバクテリア)症

主に小型の飼育鳥に多い胃の感染症です。
セキセイインコに特に多く、その他カナリア、キンカチョウ、マメルリハでも重症化しやすいと言われています。

以前は「メガバクテリア(巨大な細菌)」と呼ばれていましたが、真菌(カビの仲間)であることが確認され、AGY(Avian Gastric Yeast;鳥類の胃の酵母菌)もしくは学名のマクロラブダス(Macrorhabdus)の名前で呼ばれています。
健康な個体であれば発症せずに生涯をすごす子もいますが、何らかの理由で免疫力が低下すると発症します。発症する要因としては、換羽期、環境の変化によるストレスや、他の病気による免疫力の低下などです。

主な症状としては、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、黒色便、体重減少などで、最悪の場合死に至ります。

診断は糞便検査によって検出します。早期に発見できれば抗真菌剤を投与することで治療可能です。
飲み薬が飲める子であれば飲み薬で、飲み薬が難しい子や効きにくい子は、1週間ごとの注射で駆除していきます。

健康チェック(体重測定、糞便検査)で早期に発見・駆除しましょう。また、衛生的な環境、生活ストレスの軽減などで発症を防ぐことも大切です。


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