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動物別症例集 7ページ目

鳥の卵詰まり(卵塞症)

鳥は卵を産む動物、そういう認識は皆さんあると思いますが、それが命に関わる事故につながることがあります。
一番代表的なものが、卵詰まり(卵塞症)です。

卵塞症とは、文字通り卵が通り道で詰まってしまう事を指します。卵詰まりの原因は多岐に渡り、寒冷や環境変化のストレス、高齢、多産による低カルシウム血症、産道弛緩不全、卵管口閉塞、骨格異常、腹壁ヘルニアなどがあげられます。
特に初産の子や、多産の子に起きやすいと言われています。

症状も無症状から重症まで多様ですが、腹部に卵が触れてから24時間以上産卵しない場合は、卵塞症と診断されます。
急激な元気食欲の低下・膨羽(羽を膨らませてじっとしていること)・呼吸速迫・床でうずくまるなどの症状が出たら早期の処置が必要なため、暖かくしてなるべく早くの受診をお勧めします。

レントゲンで卵が確認された場合は、いくつかの注射(カルシウム剤など)と、必要に応じて卵の圧迫排泄処置を行います。
上手く卵が排泄されれば元気に戻りますが、状態が悪い子は最悪処置中に亡くなってしまうことも考えられます。

予防法は、とにかく卵を産ませないこと。発情をなるべくさせないことです。
発情関連の病気は、卵詰まり以外にも多く(オスメス関わらず)みられるので、病気の予防を意識した飼い方が奨められます。


ハムスターの体表腫瘍(皮弁形成術)

ハムスターには腫瘍が多く認められます。
中でも頭部に出来やすい腫瘍としては、扁平上皮癌・粘液腫・粘液肉腫などが多いとされます。

このハムスターさんは、頭部に肉腫(悪性腫瘍の一つ)が認められました。
この種の腫瘍はどんどん大きく広がっていくため、外科的な切除が第一に選択されます。

この子の場合は、腫瘍の一部が右の上まぶたに乗っかっていました。腫瘍を切除すると上まぶたも切除することになるため、術後右目の障害が起きることが懸念されました。
右目のできる限りの温存も考えましたが、腫瘍の完全切除を目指し、また術後の本人の不快感を最小限にするために、右眼の摘出も同時に行うことにしました。
また、皮膚があまり余っていない部分なので、皮膚が縫い合わせられないことも懸念されましたが、右頬から眼窩(眼球のおさまっていた部分)をまたいで皮膚をひっぱってくる(皮弁形成)ことで、問題を解消しました。

このハムスターさんは術後すぐにご飯を食べるほど経過もよく、特に生活上の支障は起きてないとのことです。

腫瘍の手術の場合は、今回のように苦渋の選択で正常な部位も犠牲にせざるを得ない場合もあります。手術の結果、起きうる可能性のある合併症や障害の程度を考え、何がその子にとってベストなのか、飼い主さんと獣医師がよく話し合う必要があります。


モルモットのハジラミ

モルモットの外部寄生虫症は比較的多いと言われます。主にハジラミやダニが認められます。

モルモットに皮膚病が認められた場合、これらの寄生虫や、内分泌性(ホルモン性)、ストレス性、栄養性(ビタミンC欠乏など)なども考慮して検査や治療にあたります。


写真はカビアハジラミというハジラミの仲間で、皮膚の角質や皮脂などを食べています(注。
ハジラミ類は宿主特異性が高く(人など、他の種類の動物には移らない)、動物の体の上でなければ生存・繁殖ができません。

症状は軽度のかゆみと、不快感(落ち着きがなくなる)などで、特に耳の後ろに見られることが多いです。
感染が少数であれば、症状がない場合もあります。

治療は注射や飲み薬、犬猫用のスポット製剤が使われます。
多くの薬は卵には効果がないため、通常2週間毎に複数回の投与が推奨されています。
また、主に直接の接触によって他のモルモットに移るので、同居のモルモットは同時に駆虫する必要があります。


(注:似た仲間であるシラミは、血を吸って生活しています。


ハリネズミの脾臓腫瘍(脂肪肉腫)

高齢のハリネズミには腫瘍が多く発生します。

このハリネズミさんは、脾臓に脂肪肉腫という腫瘍ができていました。
これは脂肪細胞が脾臓で腫瘍化した、悪性腫瘍です。
治療は外科摘出になりますが、脾臓の悪性腫瘍は転移が認められる場合、予後が悪いことが多いです。腫瘍なので内科療法では治療が難しく、また抗がん剤はハリネズミでは確立されていません。

脾臓の腫瘍はお腹の中にあるものなので、特にハリネズミは発見が難しく、検査も麻酔をかける必要があることが多いです。

ハリネズミさんは見た目で病気や体調不良をしづらいため、普段から全身をよく触ってあげることが早期発見につながります。


デグーの子宮腫瘍

デグーの腫瘍についてのまとまった報告は、ほとんどありません。

このデグーさんは、元気食欲の低下と陰部からの出血で来院され、お腹の中に直径4cmほどの巨大な腫瘍が見つかりました。

症状と腫瘍の位置から生殖器系の腫瘍が疑われたため、飼い主さんとの相談の上、摘出手術を実施しました。
結果は「子宮平滑筋腫」とよばれる子宮の良性腫瘍でした。ウサギでは比較的多くみられる腫瘍の一つです。
この腫瘍による胃腸の圧迫で元気食欲が低下し、また腫瘍からの出血が陰部から排出されていたものと思われます。

本人は術後の経過もよく、とても元気にしています。

デグーは病気の情報が少なく、特に腫瘍に関してはほとんど文献も見つかりません。
このような場合は、他の動物を参考にして考えられる病態を推測しながら治療をしなければいけません。
情報量が少なく、手術となるとリスクも伴うことから、治療をあきらめてしまう方もいるのですが、適切な治療によって回復が見込めることもあるため、獣医師と飼い主さんとの徹底的な話し合いが必要になります。


デグーの尾の腫瘍(脊索腫)

デグーの腫瘍については、情報が非常に少ないのが現状です。
デグーは他の動物に比べて腫瘍は少ないとも言われていますが、歯牙腫、線維腫、線維肉腫、血管腫、肉腫、リンパ腫などの報告があります。

このデグーさんには、尾の付け根辺りに「脊索腫」と呼ばれる腫瘍ができていました。
脊索腫とは、通常胎児期のみに認められる脊索という機関が出生後も残存し、腫瘍化したものです。

フェレットによく認められるため、フェレットの飼い主さんはご存知の方がいるかもしれません。
フェレットでは、通常尾の先端に塊状の腫瘍が形成されます(まれに尾以外の部分にもできる場合もあります)。

悪性度は低い腫瘍に分類されますが、どんどん大きくなっていくこと、ごくまれに転移があるとの報告があることから、外科切除が推奨される腫瘍です。腫瘍の完全切除が出来れば完治も見込めます。

ただし、デグーの脊索腫については文献による報告がなく、挙動や悪性度などは正確にはわかっていません。


※本症例は、病理専門医の近藤広孝先生執筆の元、海外の学術論文に掲載されました。
Kondo, H., Hara, K., Sukegawa, A., & Shibuya, H. (2018). Chordoma of the Tail in a Degu (Octodon Degus). Journal of Exotic Pet Medicine, 27(4), 1–4. https://doi.org/10.1053/j.jepm.2017.10.025


貧血

貧血とは、血液中の赤血球が少なくなった状態を言います。
赤血球は肺から全身に酸素を運ぶ役割をしているため、貧血が進行すると全身が酸素不足になり、生命維持ができなくなってしまいます。

症状は、歯茎が白い、元気がない、すぐに息が上がる、と言ったものが一般的ですが、検査で偶然見つかる場合もあります。

貧血の原因には色々な種類があり、治療法も異なります。
それぞれの原因に対する治療が必要なので、まずは詳細な検査を行います。血液検査・レントゲン検査・超音波検査の他、全身麻酔で骨から細胞を採取する骨髄検査が必要な場合もあります。

また、貧血の程度や進行具合によっては、複数回の輸血が必要なこともあります。

①失血性貧血
事故による大量出血のほか、お腹の中の腫瘍の自潰(破裂すること)によっても起きます。
ウサギのメスでは、子宮疾患による持続的出血でこの状態になります。
出血部位の特定と、速やかな止血治療が必要になります。緊急手術の場合も多く、輸血が必要になる場合も少なくありません。

②腎性貧血
腎臓では、赤血球を作るホルモンが作られています。腎臓病が進行すると、このホルモンが不足し、赤血球が作られなくなります。
進行は比較的緩やかですが、元気や食欲が低下していきます。週1~3回不足したホルモンを注射することで一時的な改善がみられます。

③免疫介在性貧血
体の免疫機能が、赤血球を誤って破壊してしまう病気です。破壊される赤血球のステージにより、免疫介在性溶血性貧血、非再生性貧血、赤芽球癆、再生不良性貧血といった名前がついています。治療は免疫抑制剤の内服薬が主体になりますが、反応が見られず亡くなってしまうケースもあります。

④感染性貧血
寄生虫やウイルスなどが原因となり、引き起こされる貧血です。
犬ではダニが媒介する寄生虫の感染により、赤血球が破壊されます。マダニの予防をしっかりすることで防げる病気です。
猫では、ヘモプラズマと呼ばれる微生物や、猫エイズ・猫白血病ウイルスに関連した貧血も知られています。

⑤ホルモン性貧血
ホルモンが過剰に分泌されることで起きる貧血もあります。それぞれの過剰なホルモンに対する治療になりますが、性ホルモン関連の病気であれば、避妊・去勢手術で予防が可能です。
フェレットでは、副腎疾患に伴うホルモン性の貧血が起きやすいです。

⑥中毒性貧血
玉ねぎ中毒がよく知られていますが、ネギ類は赤血球を破壊し、貧血を起こします。

⑥その他の病気による貧血
他の病気が原因となり、赤血球が作られにくくなる場合があります。基本的には、それぞれの原因に対する治療となりますが、コントロールが難しい場合も多いです。


犬・猫の異物の誤飲

おもちゃ、ぬいぐるみ、靴下、トウモロコシの芯、果物の種、ビニール袋、お菓子の包み紙、縫い針、画びょう、リボンなどなど。

異物を誤って飲み込んでしまったと来院される動物は非常に多いです。
現行犯で来られる方もいれば、知らないうちに飲み込んでいたものが腸に詰まっており、検査して初めて腸閉塞が見つかったということも珍しくありません。

①薬で吐かせる。
②内視鏡(胃カメラ)でとる。【全身麻酔】
③開腹手術。【全身麻酔】

対応方法は以上3種類がありますが、①の薬で吐かせるのは、飲み込んで比較的時間が経たない間、吐かせてもリスクの少ないものに限られます。
腸閉塞を起こしていれば、緊急手術になります。

間違って飲み込んでしまった場合、とにかく対応の速さがカギになりますので、拾い食いをする癖のある子は普段からよく気を付けてあげて下さい。


もちろん、飲み込まないのが一番です。

犬は口に一度加えたものを、取られそうになると慌てて飲み込んでしまう傾向があるので、飼い主さんの指示で必ず離すようにしつけをしておくことも、予防手段の一つです。
猫は紐状のリボンや輪ゴムで遊ぶのが大好きですが、それを飲み込んでしまって腸閉塞を起こすことも多いです。なるべくそのようなものを無造作に置いておかないことが大事ですね。


*写真の説明*
トウモロコシの芯・・・運よく胃カメラでとれました。腸閉塞を起こす代表的なものです。
ビニール袋・・・細かく引きちぎられたものが、腸閉塞をおこしていました。
縫い針・・・胃を貫通して脇腹に刺さっていました。
髪の毛の塊・・・普段から食べるクセがあったそうですが・・・これにはびっくり。
リボン・・・猫の代表的な異物の一つです。腸の壊死を起こしやすく、非常に危険な異物です。


ウサギの胃消化管症候群(毛球症)

草食動物であるウサギは、食べた草を盲腸の中で発酵させて栄養を作り出しています。
そのために、常に胃腸を動かしていることを前提とした体の仕組みをしています。

ウサギは一方で、環境ストレスや体調の変化で胃腸の運動が低下しやすい側面も持っています。
中には急激に胃拡張を起こして他の臓器や血管を圧迫したり、胃腸に穴が開いてしまう場合もあり、最悪そのまま死に至ります。

食欲や胃腸運動の低下には、主に以下のような原因が考えられます。
・自分の被毛が胃や腸でフェルト状に絡まることで、胃腸の閉塞を起こす(いわゆる「毛球症」)。
・環境の変化などのストレスにより、胃腸の運動が低下する。
・ペレットや野菜メインの食生活による、食事内の繊維質不足。
・他の病気や痛みにより、胃腸の運動が低下する。
・異物の誤飲による腸閉塞。

通常は注射や飲み薬での治療がメインになりますが、口や鼻からチューブを入れて胃の減圧をしたり、緊急手術が必要な場合もあります。

普段から高繊維の食事(牧草)や、環境ストレスへの配慮、こまめなブラッシングなど、予防を心掛けましょう。
特に換毛期は調子を崩しやすいので、予防的な薬の投与もお勧めです。


食欲がなくなったウサギは病態の進行が急なので、少しでも様子がおかしければ速やかな受診をお願いします。


ハムスターの嚢胞性疾患

中高齢のハムスターでは、お腹の中に嚢胞(液体の入った袋状の構造物)が形成されることがあります。

大きく成長して内臓を圧迫すると、食欲不振や多飲多尿、呼吸困難、消化不良などの症状が認められることがあります。食事を変えていないのに、だんだん太ってきた(お腹が膨れてきた)という場合にはこの病気の可能性も考えます。

ゴールデンハムスターでは肝臓に形成されることが多いですが、他の臓器にもできることがあります。また、ジャンガリアンハムスターでは卵巣が最も頻度が高いという報告もあります。

嚢胞自体に病原性はほとんどありませんが、背景に腫瘍が関連している場合もあるので、超音波検査などの精査が必要です。

症状が強く表れ、生活に支障がでるようであれば、手術が適応になります。大人しい子であれば、お腹に注射の針を刺して一時的に液体を抜くことは可能ですが、また大きくなってくる可能性が高いです。


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