動物別症例集 6ページ目
ウサギの精巣腫瘍
ウサギの男の子も犬猫同様、去勢手術を行います。
理由は大きく二つ、「病気の予防」と「問題行動の抑制」です。
病気の予防としては、高齢になってからの精巣腫瘍の発生があります。
ウサギの精巣腫瘍は報告としてはあまり多くはありませんが、ウサギの寿命が延びるにつれて、少しずつみられるようになってきています。
治療は手術になりますが、高齢になってから発症するため、他の病気によって手術ができない可能性があります。また、ウサギの精巣はひっくり返して見なければ外から見えにくく、見つけた時は手遅れになっていたというケースも考えられます。
もう一つは、問題行動の抑制です。
去勢していない男の子は縄張り意識が強く、自分の縄張り内に尿や糞でマーキングをして回ります。時には飼い主さんの足にスプレー(尿をひっかけること)をする場合もあり、室内飼いの場合に問題になります。
また、多頭飼いの場合オス同士は縄張り争いが、オスメスでは望まぬ妊娠のリスクがあります。これはウサギさんにとって大きな精神的ストレスですし、大きな怪我の原因にもなりえます。
ウサギの麻酔は危険という認識がありますが、去勢手術は短時間で終わる手術なので、それほど大きな負担はかかりません。また、近年はウサギに使いやすい麻酔薬や、麻酔の安全性を高める器具も出てきており、ウサギの手術に対するハードルが以前より低くなってきています。
去勢手術は、若く元気な時にするのが一番低リスクです。メリットとデメリットをよく考えて、一つの選択肢に入れてあげるといいのではないでしょうか。
セキセイインコの腹壁ヘルニア
腹壁ヘルニアとは、お腹の筋肉の裂け目から内臓が皮膚の下に飛び出た状態です。
お腹が膨れているといって来院されることが多く、症状が全く見られないこともあります。ただし、腸や卵管の脱出がある場合、腸閉塞や卵塞の原因になります。
また、突っ張ったお腹の皮膚がキサントーマ(黄色腫)を形成し、出血しやすくなっている場合もあります。
ヘルニアの有無は見た目で判断できないため、レントゲン・バリウム検査・超音波検査によって診断されます。
原因は慢性的な発情によるものが多く、セキセイインコのメスに多くみられます。オカメインコなど他の鳥種でもみられる場合があります。
治療は外科手術になります。
脱出した臓器を戻して、筋肉の裂け目を縫い合わせることで再脱出を防ぎます。この際、発情による再発予防のために、卵管摘出術(哺乳類でいうところの避妊手術)を同時に行うことも多いです。
この病気もそうですが、メスの鳥たちは慢性発情による病気が非常に多く、命に関わることも多いため、発情をさせないような飼育が推奨されています。
ウサギの軟部組織肉腫
軟部組織肉腫とは、悪性腫瘍(いわゆる「癌」)の中で、似た挙動を示すグループの総称です。
元々の細胞の種類によって線維肉腫、脂肪肉腫、神経鞘腫、未分化肉腫などに細分されますが、腫瘍の進行の仕方や治療法などに大きな違いはありません。
ウサギの腫瘍の中では比較的よくみられるもので、手足や体幹部(胴体)、頭部など様々な所に発生します。
非常に局所浸潤性が高い(周囲に広がりやすい)一方で、転移(他の離れた臓器に飛ぶこと)はしにくいという特徴があります。
診断は、腫瘍の一部を切り取って検査する病理組織検査になりますが、針生検による簡易検査でも疑わしいと判断できる場合もあります。
治療は外科摘出が第一選択です。
完全に摘出できれば完治する腫瘍ですが、少しでも細胞が残ってしまうと再発を繰り返し、治療が難しくなります。そのため、手術の際には腫瘍だけでなく、周りの正常な組織を含めて広く切除することが重要になります。もし手足に発生した場合は、完全切除のために断脚も必要になります。
完全に摘出できなければ、抗癌剤や放射線治療が選択されますが、その場合完治には至りません。
どちらにしても大きな手術となり、断脚の場合は足が一本なくなることになります。
そのため手術を躊躇われる方も多いですが、私たちの想像以上にウサギさんたちはそういった体の変化に上手く適応してくれます。
腫瘍がとりきれるのか、とった術後の後遺症はどんなものが考えられるのか、しっかり獣医師と飼い主さんが話し合うことが大切です。
胆石症・胆嚢摘出
肝臓は体内で様々な働きをしています。その内の一つに、胆汁という消化液を作り出す機能があります。
肝臓で作られた胆汁は、胆嚢という器官に一時的に蓄えられた後、食事の刺激によって腸内に排出されます。
この胆汁が濃縮して泥状に変性した状態を胆泥、さらに石のように固まったものを胆石といいます。
人の胆石はコレステロールが主成分であることが多いですが、犬や猫ではビルルビンや炭酸カルシウムが多いことが知られています。
これらの異常は健康診断などで偶然発見される事が多く、すぐに症状を示すものではありません。
しかし、これらの異常により胆嚢や胆管(胆汁の通る管)、肝臓に炎症が起きた場合や、胆石が胆管に詰まってしまうことで重篤な症状を示すケースがあります。
症状としては、元気食欲の低下、嘔吐などが多く、重度の場合は黄疸が認められることもあります。
内科治療として、胆汁の分泌を促す利胆剤や抗生物質、専用の療法食で様子を見ることも多いですが、場合によっては緊急手術による胆石・胆嚢摘出が必要な場合もあります。
何もなく経過することも多いですが、重度の炎症や閉塞を起こすと命を落とす事もあるため、油断はできません。
定期的な健康診断で早期発見をする事も大切です。
写真1:猫の胆石症です。砂利上の胆石が白っぽく溜まって見えています。
写真2:犬の胆石症です。胆嚢内ではなく、肝臓内に胆石が確認されます。
犬の乳腺腫瘍
メスの犬は、高齢になると乳腺腫瘍が多くみられます。
良性のものを乳腺腺腫、悪性のものを乳腺腺癌(乳腺癌)といい、犬ではその比率は半々と言われています。
乳頭の周囲の皮膚の下に硬いしこりができ、それが徐々に大きくなっていきます。
良性の乳腺腺腫であれば健康上影響がない場合もありますが、乳腺腺癌(乳腺癌)は全身に転移し、最終的に死に至ります。
診断は細胞診、または病理組織検査になります。
細胞診は注射の針を腫瘍に刺して細胞を取ってくる検査で、簡便ですが精度はあまりよくありません。
病理組織検査は全身麻酔で腫瘍を塊ごと摘出し、専門の機関に依頼して、腫瘍細胞の悪性度や分布をみる検査になります。
悪性であれば命に関わるため、乳腺腫瘍が見つかった段階で早期の手術+病理組織検査をお勧めすることがほとんどです。
悪性であっても、早期発見により完全に切除できれば完治する腫瘍です。
しかし発見が遅れ、全身への転移が認められた場合、治療は困難です。
外科手術で完全切除が出来なかった場合や転移が認められた場合に、化学療法(抗癌剤)を検討することもありますが、完治させるには至りません。
また稀なケースですが、炎症性乳癌といって手術が出来ないタイプの乳癌もあるので、注意が必要です。
できてしまうと大変な乳腺腫瘍ですが、発生率(良性・悪性とも)を早期の避妊手術によって激減させることができます。
避妊手術までの間に発情を経験させる回数により、0回で0.05%、1回で1%、2回で24%まで抑えられることがわかっています。それ以上発情を経験してしまうと、予防効果は期待できないと報告されていますので、避妊手術を考える場合には、なるべく早期の手術が推奨されています。
ウサギの歯根膿瘍
歯根膿瘍(しこんのうよう)とは、歯の根っこの部分に細菌が入り込み、大きな膿瘍(いわゆる「おでき」)を作る病気です。
根尖膿瘍、根尖周囲膿瘍、などとも呼ばれます。
ウサギの歯に不整咬合や過長症などのトラブルが生じると、歯根部に細菌が入り込み、膿瘍を形成します。
膿瘍は、上顎や下顎にできものとして触れるようになります。また膿瘍のできる場所によっては、呼吸器症状や眼球の突出などが起こります。
ウサギの膿瘍は飲み薬では効果が見られないことが多く、全身麻酔下での切除が理想です。完全切除が難しい場合は、抜歯や排膿・消毒を行いますが、完治は難しく、長期にわたる治療が必要になります。
治療には色々な試みが報告されています。多くの場合、膿瘍を開放創(わざと傷口を開けておく)にし、自宅や病院で洗浄・消毒を繰り返します。
通常の消毒薬で治療困難な場合、殺菌作用のあるクリーム(カルシペックス®など)を注入することもあります。
一度なると完治が難しいことが多いため、予防が何より大事になります。
詳しい予防法は、「不整咬合」の記事を参照してください。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌という真菌(カビ)による皮膚炎を指します。犬猫だけでなく、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンチラ、フェレット、デグー、ハリネズミなど多くの動物に感染します。
子供や高齢、また何らかの病気により免疫力が低下している動物に主に認められます。
頭部や手足から全身に広がるケースが多いです。
また、円形の脱毛が認められることが多いですが、見た目で診断はできません。かゆみがある場合もない場合もあります。
診断は、抜毛検査による糸状菌の検出や、培養検査、ウッド灯と呼ばれる特殊なライトを用いた検査によって糸状菌を検出します。
検出されない場合でも、通常の治療に反応がない場合は試験的な治療が功を奏する場合もあります。
治療は、抗真菌薬の内服薬や軟膏、薬用シャンプーによる薬浴などがあります。治療は長期間にわたる可能性もあり、自己判断で中止しないことが重要です。
また、皮膚糸状菌症は人獣共通感染症(ズーノーシス)の一種であり、人にも感染します。人間ではリングワームと呼ばれる円形の赤い湿疹が特徴的です。
皮膚病の子がお家にいる方で、上記の症状が出た場合は特にこの病気を疑います。飼い主さんは、皮膚科の受診をお勧めします。
ハリネズミの子宮疾患
ハリネズミも、犬やウサギと同様に子宮の病気が多い動物です。
3-5歳のハリネズミで多くみられますが、2歳で発見されたケースもあります。
血尿ということで検査をしたところ、実は子宮からの不正出血だったということが多いです。
肉片のようなものを血尿と一緒に排泄することもあります。
病気としては、子宮内膜炎、子宮内膜過形成、子宮腺癌、子宮平滑筋腫などが報告されています。
また、卵巣の異常も同時に見つかることもあります。
血尿や元気の低下が見られた場合、レントゲン・超音波・血液検査をして病気を確認しますが、丸まってしまう子は麻酔をかけないと検査自体ができません。
また、癌の場合は他の臓器への転移の可能性もありますが、手術前に癌かどうかを診断することは困難です。
治療は、薬で行う場合もありますが、基本的には手術で子宮と卵巣を取り除きます。
癌の転移がなければ手術で完治が見込める病気ですが、発見時には病気が進行してしまっていて、手術が困難なケースもあります。
早期発見が難しい動物ですので、犬や猫、ウサギのように、予防的な避妊手術をしてしまうのも一つの選択肢です。
ハムスターの皮膚型リンパ腫
リンパ腫とは、リンパ球と呼ばれる血液細胞が腫瘍化したもので、悪性腫瘍(いわゆる「癌」の仲間)に分類されます。
多くの動物で認められる病気ですが、ハムスターの中ではゴールデンハムスターで多くみられます。
ハムスターのリンパ腫は、皮膚に主に症状が出る「皮膚型」と全身に主に症状が出る「多中心型」が主に報告されます。
「皮膚型リンパ腫」の症状は、強いかゆみと皮膚炎が特徴的です。進行するにしたがって、かゆみにより怒りっぽくなったり、脱毛の範囲が広がり、かさぶたや腫れが増えてきます。
簡易的な検査や通常の皮膚炎の治療(抗生物質・抗真菌剤・消炎剤など)で改善が認められない場合、この病気も疑うことになります。
診断を確定するためには、皮膚病変を作る他の病気(ホルモン異常など)の除外と、麻酔をかけて皮膚の一部を切り取る「皮膚生検」を行います。
治療は抗癌剤が理想的ですが、使用可能な薬が限られる、薬による副作用が強く出る恐れがあるなどの問題があります。このため、あえて抗癌剤を使わず、免疫賦活剤や消炎剤などを用いた緩和治療をとることも少なくありません。
同じ齧歯類のデグーでも、同様の症状で皮膚型リンパ腫が強く疑われる症例を経験しています。
犬の鼻孔拡張手術
パグ、フレンチブル、ブルドッグなど、鼻がつぶれている犬種を短頭種といいます。
短頭種は、呼吸器にトラブルを起こしやすいことがよく知られています。
鼻孔狭窄・軟口蓋過長・喉頭麻痺など、呼吸器の複数の部分の異常を併発することが多く、総称で短頭種気道症候群とも呼ばれます。
興奮した時に、すぐガーガーいびきのように呼吸をするのも、その症状の一つです。
短頭種気道症候群は進行性の病気で、重症になると少しの事で呼吸困難を起こしやすくなります。
鼻孔拡張手術は予防法の一つで、写真の左のように狭くなっている鼻の穴を広げる手術です。(文献的には、当院の方法以外にもいくつかの方法が紹介されています。)
これにより、鼻での呼吸がしやすくなり、短頭種気道症候群の進行を抑えることが期待されます。
進行性の病気ですので、生まれつき鼻の穴の狭い子は、早期の手術をお勧めしています。比較的短時間で終わる手術なので、避妊去勢手術と同じタイミングにされる方が多いです。