動物別症例集
心臓病の猫
心臓病の猫
心臓病はいくつかの種類があるのですが、猫ちゃんでは肥大型心筋症という心臓の筋肉が太くなるタイプが多いといわれています。
しかし、猫の心臓病はそれいがいにもいろんなタイプの心筋症が認められるため、エコーなどをしっかり見ていく必要があります。
また、心臓病ではないのに心臓病のように見えることもあるため、いろんな検査を組み合わせて診断する必要があります。
症状としては、無症状…つまり見た目上元気なのに心臓病を持っている子もいます。
そして、進行した後で重篤な症状が表れたり、血栓が詰まり突然死したりすることもあります。
病気として、見つけられにくく、症状が出た時には取り返しのつかない状況のこともあるので、
健康診断などで早めに診断できるといい病気の一つですね。
アレルギー性皮膚炎の猫
アレルギー性皮膚炎の猫
ノミや食物などの抗原に対してアレルギー症状を起こすと
猫ちゃんに痒みを伴った脱毛や赤みなどの皮膚症状を引き起こすことがあります。
診断には、アレルギー以外の痒みを引き起こす病気を除外したり、
食事変更や試験的な駆虫薬の使用など、様々なアプローチが必要となります。
アレルギー疾患のコントロールには通年の投薬や食事の変更が必要になることもありますが、
痒いのはけっこう辛いので、症状がきれいに収まってくれるといいですね。
※ちなみに、ノミや食物以外の抗原が原因となる「非ノミ非食物アレルギー性皮膚炎」というのもあります。
アレルギーは奥が深いですね…
猫 尿管結石
尿管という、腎臓から膀胱までの道のところに石が詰まる病気です。
腎臓の機能がどこまで残っているか?
完全に詰まっているのか?
本人の状態がどうなのか?
によって治療の進め方が変わってはきますが、
根本的に取り除くには外科的に取り出す手術を行うこともあります。
取ればそれで終わりではなく、
再度石が出来ないか?
腎臓の機能は維持できているのか?などこまめな検査が必要となります。
胆石症・胆嚢摘出
肝臓は体内で様々な働きをしています。その内の一つに、胆汁という消化液を作り出す機能があります。
肝臓で作られた胆汁は、胆嚢という器官に一時的に蓄えられた後、食事の刺激によって腸内に排出されます。
この胆汁が濃縮して泥状に変性した状態を胆泥、さらに石のように固まったものを胆石といいます。
人の胆石はコレステロールが主成分であることが多いですが、犬や猫ではビルルビンや炭酸カルシウムが多いことが知られています。
これらの異常は健康診断などで偶然発見される事が多く、すぐに症状を示すものではありません。
しかし、これらの異常により胆嚢や胆管(胆汁の通る管)、肝臓に炎症が起きた場合や、胆石が胆管に詰まってしまうことで重篤な症状を示すケースがあります。
症状としては、元気食欲の低下、嘔吐などが多く、重度の場合は黄疸が認められることもあります。
内科治療として、胆汁の分泌を促す利胆剤や抗生物質、専用の療法食で様子を見ることも多いですが、場合によっては緊急手術による胆石・胆嚢摘出が必要な場合もあります。
何もなく経過することも多いですが、重度の炎症や閉塞を起こすと命を落とす事もあるため、油断はできません。
定期的な健康診断で早期発見をする事も大切です。
写真1:猫の胆石症です。砂利上の胆石が白っぽく溜まって見えています。
写真2:犬の胆石症です。胆嚢内ではなく、肝臓内に胆石が確認されます。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌という真菌(カビ)による皮膚炎を指します。犬猫だけでなく、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンチラ、フェレット、デグー、ハリネズミなど多くの動物に感染します。
子供や高齢、また何らかの病気により免疫力が低下している動物に主に認められます。
頭部や手足から全身に広がるケースが多いです。
また、円形の脱毛が認められることが多いですが、見た目で診断はできません。かゆみがある場合もない場合もあります。
診断は、抜毛検査による糸状菌の検出や、培養検査、ウッド灯と呼ばれる特殊なライトを用いた検査によって糸状菌を検出します。
検出されない場合でも、通常の治療に反応がない場合は試験的な治療が功を奏する場合もあります。
治療は、抗真菌薬の内服薬や軟膏、薬用シャンプーによる薬浴などがあります。治療は長期間にわたる可能性もあり、自己判断で中止しないことが重要です。
また、皮膚糸状菌症は人獣共通感染症(ズーノーシス)の一種であり、人にも感染します。人間ではリングワームと呼ばれる円形の赤い湿疹が特徴的です。
皮膚病の子がお家にいる方で、上記の症状が出た場合は特にこの病気を疑います。飼い主さんは、皮膚科の受診をお勧めします。
犬・猫の異物の誤飲
おもちゃ、ぬいぐるみ、靴下、トウモロコシの芯、果物の種、ビニール袋、お菓子の包み紙、縫い針、画びょう、リボンなどなど。
異物を誤って飲み込んでしまったと来院される動物は非常に多いです。
現行犯で来られる方もいれば、知らないうちに飲み込んでいたものが腸に詰まっており、検査して初めて腸閉塞が見つかったということも珍しくありません。
①薬で吐かせる。
②内視鏡(胃カメラ)でとる。【全身麻酔】
③開腹手術。【全身麻酔】
対応方法は以上3種類がありますが、①の薬で吐かせるのは、飲み込んで比較的時間が経たない間、吐かせてもリスクの少ないものに限られます。
腸閉塞を起こしていれば、緊急手術になります。
間違って飲み込んでしまった場合、とにかく対応の速さがカギになりますので、拾い食いをする癖のある子は普段からよく気を付けてあげて下さい。
もちろん、飲み込まないのが一番です。
犬は口に一度加えたものを、取られそうになると慌てて飲み込んでしまう傾向があるので、飼い主さんの指示で必ず離すようにしつけをしておくことも、予防手段の一つです。
猫は紐状のリボンや輪ゴムで遊ぶのが大好きですが、それを飲み込んでしまって腸閉塞を起こすことも多いです。なるべくそのようなものを無造作に置いておかないことが大事ですね。
*写真の説明*
トウモロコシの芯・・・運よく胃カメラでとれました。腸閉塞を起こす代表的なものです。
ビニール袋・・・細かく引きちぎられたものが、腸閉塞をおこしていました。
縫い針・・・胃を貫通して脇腹に刺さっていました。
髪の毛の塊・・・普段から食べるクセがあったそうですが・・・これにはびっくり。
リボン・・・猫の代表的な異物の一つです。腸の壊死を起こしやすく、非常に危険な異物です。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫コロナウイルスにより引き起こされる、致死率の非常に高い病気です。
猫コロナウイルスは本来病原性が高いウイルスではありませんが、強いストレスなどにより体内で突然変異を起こし、致死性のウイルスに変わります。
若齢または高齢の猫の発症が多くみられ、比較的純血種に多いです。
FIPには、二つのタイプがあります。どちらも元気や食欲が低下し、徐々に衰弱していきます。
・ウェットタイプ・・・腹水や胸水が貯留します。腹水では腹囲膨満、胸水では呼吸異常が見られることが多いです。
・ドライタイプ・・・体内に腫瘍を形成します。症状に乏しい事が多いですが、目の内部の炎症から発見されることがあります。
検査は、特徴的な症状と血液検査・遺伝子検査などを組み合わせて行います。
治療法は確立されていません。
高齢猫において、ステロイドの高用量投与や、インターフェロンという免疫調整作用のある注射を定期的に打つことで、症状の改善が見られたという報告があります。
健康診断の一環として、コロナウイルスの感染の強さを調べることができます。通常は複数回血液検査を行い、高い値が続くようなら、リスクがある子として考えていきます(FIPを引き起こすタイプかまではわかりません)。
多頭飼いなどのストレスが発症の原因の一つと言われていますので、高リスクの子はストレスをなるべくかけない飼育を心掛けるほか、他の猫たちとの接し方にも注意をお話しています。
猫の慢性腎臓病
高齢の猫ではほとんどの子が抱える、非常に一般的な疾患です。
初期には多飲多尿や体重減少といった症状がみられ、進行していくと食欲不振や嘔吐、活動性の低下などが見られるようになります。
検査によって脱水や高血圧、貧血といった異常も出てきます。
無治療で放っておくと、最終的に尿が全く作られなくなり、死に至る病気ですが、早期に適切な治療を始めることで、寿命も生活の質(QOL)も改善させることができます。
腎臓は主に尿を作る臓器ですが、その他にも様々な働きをしています。
非常に大切な臓器なので、腎臓はもともと予備能が高く、機能が75%以上失われなければ血液検査に異常が現れません。明らかな体調不良が起きるのはさらに病気が進んだ状態です。このため、発見が遅れてしまうことも珍しくありません。
検査は主に血液検査・尿検査・血圧検査・レントゲン・超音波検査などがあります。
特に尿検査は、簡単ですが一番早くに腎臓病を検出できる検査なので、特に重要です。
治療は腎臓病のステージや病態によって異なってきます。
大まかに、初期では腎臓のダメージを減らすための内服薬や療法食。
進行してくると、脱水を改善するための定期的な皮下点滴や、入院による点滴が必要になってきます。
その他、症状に合わせて制吐剤や造血剤などのお薬を使います。
慢性腎臓病は治る病気ではありませんが、治療により目に見えて元気になる子も多いです。
より良い老後を送ってもらえるよう、猫の腎臓は常に意識してあげて下さい。
1