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動物別症例集 2ページ目

犬の門脈体循環シャント

門脈体循環シャントとは、腸や全身臓器から肝臓へと血液を送る血管である「門脈」と全身への体循環を担う大静脈との間に本来無い異常血管(シャント血管)ができることで様々な障害を引き起こす病気です。
先天性がほとんどですが重度の肝臓病があると後天的に発生することもあります。

症状は元気や食欲の低下・嘔吐・下痢などがあり、重症だと肝性脳症といわれる神経症状(けいれん発作、ふらつきなど)や、最悪の場合死に至ることもあります。
合併症として尿酸アンモニウム結晶による尿路結石などがあります。

診断には血液検査、レントゲン、エコー検査などが用いられ、CT検査が必要な場合もあります。

症状が軽度の場合は内服薬や食事療法で抑えられることもありますが、一般的には外科手術が主になります。セロハン結紮術やアメロイドコンストリクター設置術などで異常血管を結紮、閉塞します。


胆石症・胆嚢摘出

肝臓は体内で様々な働きをしています。その内の一つに、胆汁という消化液を作り出す機能があります。
肝臓で作られた胆汁は、胆嚢という器官に一時的に蓄えられた後、食事の刺激によって腸内に排出されます。

この胆汁が濃縮して泥状に変性した状態を胆泥、さらに石のように固まったものを胆石といいます。
人の胆石はコレステロールが主成分であることが多いですが、犬や猫ではビルルビンや炭酸カルシウムが多いことが知られています。
これらの異常は健康診断などで偶然発見される事が多く、すぐに症状を示すものではありません。

しかし、これらの異常により胆嚢や胆管(胆汁の通る管)、肝臓に炎症が起きた場合や、胆石が胆管に詰まってしまうことで重篤な症状を示すケースがあります。
症状としては、元気食欲の低下、嘔吐などが多く、重度の場合は黄疸が認められることもあります。

内科治療として、胆汁の分泌を促す利胆剤や抗生物質、専用の療法食で様子を見ることも多いですが、場合によっては緊急手術による胆石・胆嚢摘出が必要な場合もあります。

何もなく経過することも多いですが、重度の炎症や閉塞を起こすと命を落とす事もあるため、油断はできません。
定期的な健康診断で早期発見をする事も大切です。

写真1:猫の胆石症です。砂利上の胆石が白っぽく溜まって見えています。
写真2:犬の胆石症です。胆嚢内ではなく、肝臓内に胆石が確認されます。


犬の乳腺腫瘍

メスの犬は、高齢になると乳腺腫瘍が多くみられます。
良性のものを乳腺腺腫、悪性のものを乳腺腺癌(乳腺癌)といい、犬ではその比率は半々と言われています。

乳頭の周囲の皮膚の下に硬いしこりができ、それが徐々に大きくなっていきます。
良性の乳腺腺腫であれば健康上影響がない場合もありますが、乳腺腺癌(乳腺癌)は全身に転移し、最終的に死に至ります。

診断は細胞診、または病理組織検査になります。
細胞診は注射の針を腫瘍に刺して細胞を取ってくる検査で、簡便ですが精度はあまりよくありません。
病理組織検査は全身麻酔で腫瘍を塊ごと摘出し、専門の機関に依頼して、腫瘍細胞の悪性度や分布をみる検査になります。

悪性であれば命に関わるため、乳腺腫瘍が見つかった段階で早期の手術+病理組織検査をお勧めすることがほとんどです。

悪性であっても、早期発見により完全に切除できれば完治する腫瘍です。
しかし発見が遅れ、全身への転移が認められた場合、治療は困難です。
外科手術で完全切除が出来なかった場合や転移が認められた場合に、化学療法(抗癌剤)を検討することもありますが、完治させるには至りません。
また稀なケースですが、炎症性乳癌といって手術が出来ないタイプの乳癌もあるので、注意が必要です。

できてしまうと大変な乳腺腫瘍ですが、発生率(良性・悪性とも)を早期の避妊手術によって激減させることができます。
避妊手術までの間に発情を経験させる回数により、0回で0.05%、1回で1%、2回で24%まで抑えられることがわかっています。それ以上発情を経験してしまうと、予防効果は期待できないと報告されていますので、避妊手術を考える場合には、なるべく早期の手術が推奨されています。


皮膚糸状菌症

皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌という真菌(カビ)による皮膚炎を指します。犬猫だけでなく、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンチラ、フェレット、デグー、ハリネズミなど多くの動物に感染します。

子供や高齢、また何らかの病気により免疫力が低下している動物に主に認められます。
頭部や手足から全身に広がるケースが多いです。
また、円形の脱毛が認められることが多いですが、見た目で診断はできません。かゆみがある場合もない場合もあります。

診断は、抜毛検査による糸状菌の検出や、培養検査、ウッド灯と呼ばれる特殊なライトを用いた検査によって糸状菌を検出します。
検出されない場合でも、通常の治療に反応がない場合は試験的な治療が功を奏する場合もあります。

治療は、抗真菌薬の内服薬や軟膏、薬用シャンプーによる薬浴などがあります。治療は長期間にわたる可能性もあり、自己判断で中止しないことが重要です。

また、皮膚糸状菌症は人獣共通感染症(ズーノーシス)の一種であり、人にも感染します。人間ではリングワームと呼ばれる円形の赤い湿疹が特徴的です。
皮膚病の子がお家にいる方で、上記の症状が出た場合は特にこの病気を疑います。飼い主さんは、皮膚科の受診をお勧めします。


犬の鼻孔拡張手術

パグ、フレンチブル、ブルドッグなど、鼻がつぶれている犬種を短頭種といいます。

短頭種は、呼吸器にトラブルを起こしやすいことがよく知られています。
鼻孔狭窄・軟口蓋過長・喉頭麻痺など、呼吸器の複数の部分の異常を併発することが多く、総称で短頭種気道症候群とも呼ばれます。

興奮した時に、すぐガーガーいびきのように呼吸をするのも、その症状の一つです。

短頭種気道症候群は進行性の病気で、重症になると少しの事で呼吸困難を起こしやすくなります。

鼻孔拡張手術は予防法の一つで、写真の左のように狭くなっている鼻の穴を広げる手術です。(文献的には、当院の方法以外にもいくつかの方法が紹介されています。)
これにより、鼻での呼吸がしやすくなり、短頭種気道症候群の進行を抑えることが期待されます。

進行性の病気ですので、生まれつき鼻の穴の狭い子は、早期の手術をお勧めしています。比較的短時間で終わる手術なので、避妊去勢手術と同じタイミングにされる方が多いです。


貧血

貧血とは、血液中の赤血球が少なくなった状態を言います。
赤血球は肺から全身に酸素を運ぶ役割をしているため、貧血が進行すると全身が酸素不足になり、生命維持ができなくなってしまいます。

症状は、歯茎が白い、元気がない、すぐに息が上がる、と言ったものが一般的ですが、検査で偶然見つかる場合もあります。

貧血の原因には色々な種類があり、治療法も異なります。
それぞれの原因に対する治療が必要なので、まずは詳細な検査を行います。血液検査・レントゲン検査・超音波検査の他、全身麻酔で骨から細胞を採取する骨髄検査が必要な場合もあります。

また、貧血の程度や進行具合によっては、複数回の輸血が必要なこともあります。

①失血性貧血
事故による大量出血のほか、お腹の中の腫瘍の自潰(破裂すること)によっても起きます。
ウサギのメスでは、子宮疾患による持続的出血でこの状態になります。
出血部位の特定と、速やかな止血治療が必要になります。緊急手術の場合も多く、輸血が必要になる場合も少なくありません。

②腎性貧血
腎臓では、赤血球を作るホルモンが作られています。腎臓病が進行すると、このホルモンが不足し、赤血球が作られなくなります。
進行は比較的緩やかですが、元気や食欲が低下していきます。週1~3回不足したホルモンを注射することで一時的な改善がみられます。

③免疫介在性貧血
体の免疫機能が、赤血球を誤って破壊してしまう病気です。破壊される赤血球のステージにより、免疫介在性溶血性貧血、非再生性貧血、赤芽球癆、再生不良性貧血といった名前がついています。治療は免疫抑制剤の内服薬が主体になりますが、反応が見られず亡くなってしまうケースもあります。

④感染性貧血
寄生虫やウイルスなどが原因となり、引き起こされる貧血です。
犬ではダニが媒介する寄生虫の感染により、赤血球が破壊されます。マダニの予防をしっかりすることで防げる病気です。
猫では、ヘモプラズマと呼ばれる微生物や、猫エイズ・猫白血病ウイルスに関連した貧血も知られています。

⑤ホルモン性貧血
ホルモンが過剰に分泌されることで起きる貧血もあります。それぞれの過剰なホルモンに対する治療になりますが、性ホルモン関連の病気であれば、避妊・去勢手術で予防が可能です。
フェレットでは、副腎疾患に伴うホルモン性の貧血が起きやすいです。

⑥中毒性貧血
玉ねぎ中毒がよく知られていますが、ネギ類は赤血球を破壊し、貧血を起こします。

⑥その他の病気による貧血
他の病気が原因となり、赤血球が作られにくくなる場合があります。基本的には、それぞれの原因に対する治療となりますが、コントロールが難しい場合も多いです。


犬・猫の異物の誤飲

おもちゃ、ぬいぐるみ、靴下、トウモロコシの芯、果物の種、ビニール袋、お菓子の包み紙、縫い針、画びょう、リボンなどなど。

異物を誤って飲み込んでしまったと来院される動物は非常に多いです。
現行犯で来られる方もいれば、知らないうちに飲み込んでいたものが腸に詰まっており、検査して初めて腸閉塞が見つかったということも珍しくありません。

①薬で吐かせる。
②内視鏡(胃カメラ)でとる。【全身麻酔】
③開腹手術。【全身麻酔】

対応方法は以上3種類がありますが、①の薬で吐かせるのは、飲み込んで比較的時間が経たない間、吐かせてもリスクの少ないものに限られます。
腸閉塞を起こしていれば、緊急手術になります。

間違って飲み込んでしまった場合、とにかく対応の速さがカギになりますので、拾い食いをする癖のある子は普段からよく気を付けてあげて下さい。


もちろん、飲み込まないのが一番です。

犬は口に一度加えたものを、取られそうになると慌てて飲み込んでしまう傾向があるので、飼い主さんの指示で必ず離すようにしつけをしておくことも、予防手段の一つです。
猫は紐状のリボンや輪ゴムで遊ぶのが大好きですが、それを飲み込んでしまって腸閉塞を起こすことも多いです。なるべくそのようなものを無造作に置いておかないことが大事ですね。


*写真の説明*
トウモロコシの芯・・・運よく胃カメラでとれました。腸閉塞を起こす代表的なものです。
ビニール袋・・・細かく引きちぎられたものが、腸閉塞をおこしていました。
縫い針・・・胃を貫通して脇腹に刺さっていました。
髪の毛の塊・・・普段から食べるクセがあったそうですが・・・これにはびっくり。
リボン・・・猫の代表的な異物の一つです。腸の壊死を起こしやすく、非常に危険な異物です。


子宮蓄膿症

子宮蓄膿症とは、子宮が細菌感染を起こし、内部に膿がたまる病気です。

中年齢以上の犬に特に多く、猫・ウサギなどでもみられます。
(犬ではメスの2/3がなると言われています)

症状としては「元気・食欲の低下」「水をよく飲む」といったものが多く、急にぐったりして来院されるというケースも珍しくありません。
陰部から膿状のオリモノが排泄されるタイプもありますが、排泄されないタイプもあるので、それだけで判別はできません。

最悪の場合子宮が破裂してしまったり、細菌や毒素が全身に回って死に至ります。

治療は、緊急手術で膿の溜まった子宮を取り除くことになります。
手術が上手くいけば完治する病気ですが、何らかの症状を示している場合は麻酔のリスクが高くなります。

このため、発症前の健康な時に、予防的な避妊手術が勧められます。
避妊手術は、早期に行うことで乳腺腫瘍の予防にもなります。若いうちは麻酔のリスクも少ないなので、積極的な手術をぜひご検討ください。


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