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カエルの風船病 

 

カエルでは「風船病」と呼ばれる、全身性浮腫症候群という病気が存在します。比較的よく認められる病気で、中には急性の経過をたどり亡くなってしまうことも多い病気です。 
今回はそんな風船病について獣医師が解説します。 

1飼育動物としてのカエル 
 カエルは両生類の無尾目に分類される動物です。カエルは種類によって地上棲、水棲、樹上棲など様々なスタイルで生活しており、いろいろな形式で飼育を行うことが出来、またその見た目から人気を博しています。 

   カエルは肉食性で、基本的には昆虫などの生きた生餌が要求されますが、最近ではベルツノガエルなどには固形の専用飼料が販売されており、飼育し易くなってきています。カエルは変温動物であり、外気温の影響を受けます。気温・水温は爬虫類よりも少し低めの適温であることが多く、22-28度程度が良いとされています。10度を下回ると冬眠に入ります。 

  

2:カエルの風船病について 

   別名「浮腫症候群」とも言われます言われます。原因はいくつかあると考えられており、腎疾患・循環不全・皮膚病などのからくる全身性感染症・生殖器疾患・消化管疾患などです。 

   これらの病気には不適切な飼育環境がかかわる場合があります。カエルなどの両生類は体内の水分調整や電解質のバランスを保つ機能が、腎臓のみではなく腹部の皮膚なども利用するという特徴があります。そのため、飼育水の状況が原因で体調を崩す個体もいます。これが有名な「自家中毒」です。それ以外にも飼育水のpHの低下/高温の飼育水/汚れた水などが原因で皮膚からの電解質輸送の異常や浸透圧調整に異常を来すことがあります。 

 

2-1腎疾患 

   両生類水分口から摂取はほとんどせず、腹部の皮膚・膀胱からも水分吸収を行うことが出来ます。吸収された水分は腎臓で濃縮されて尿として排出されますが、両生類の腎臓の濃縮能力は限界があり、体内の窒素代謝物やイオンなどを排泄するのに多くの水を必要とします。尿は膀胱に貯められ、一定の量で排出されますが、周囲に水分がなく、脱水しかけた時はこの膀胱に蓄えられた尿から水分を再吸収することによって水分補給を行います。腎臓の機能が低下してしまうと水の排泄がうまくいかなくなります。行き場を失った水分は体の中にたまり続けてしまいます。両生類の浮腫症候群では、多くの場合腎臓が原因とするデータも出ています。 

2-2:皮膚炎・全身性感染症 

   両生類の皮膚には水分吸収の役割を担っている部分があり(ペルビックパッチ)ます。皮膚炎を起こすと水分吸収とともにイオンバランスの調整に深刻な異常をきたす場合があり、それによって浮腫が起こるとも言われています。また、その感染症が全身に広がってしまい重篤化した状態を敗血症(はいけつしょう)い言います。様々な定義がありますが、「感染症が起こってしまった状態で炎症反応が止められず、多臓器不全に陥ってしまった状態」を指します。こうなると体の中から水を排出する腎臓の機能が低下するので、体の中に水が溜まってしまいます。 

2-3循環不全 
両生類では心臓のほかにリンパ心臓が存在し、心臓とは別でリンパ液を全身に循環させる装置が存在します。このリンパ心臓の異常により体がむくむことがあります。このリンパ心臓やリンパ管の異常は、不適切な保定・注射・外傷・腫瘍・痛風などで起こることがあります。これにより時に部分的に体が浮腫むことがあります。(局所浮腫) 

3:治療方法 
カエルの風船病については多くは分かっていません。現在よく使われる手法としては、両生類用のリンゲル液用います。軽度の場合は通常のものを使用しますが、重度の場合は生理食塩水や両生類リンゲルを高濃度で使用します。この方法は浸透圧の差を利用して体から水分を排出させることを目的とします。この方法は水分を排出させる一方で、脱水症状を起こさせるやり方でもあり、疑問の声を挙げる方もいます。 
これらの治療でよくなってくれる子も居ますが、腎機能低下や敗血症の子は残念ながら亡くなってしまう子が多いです。 

4:まとめ 
・カエルの風船病は様々な原因が言われている 
・治療法は薬浴を主に選択します。 
・予後は悪いことが多いです。 


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トカゲの卵胞うっ滞

爬虫類における産卵トラブルは、爬虫類を飼育している人の多くは経験する病気だと思います。我々エキゾチックアニマルを扱う臨床獣医師にとっても比較的良く遭遇する疾患です。
中でも、トカゲ類とカメ類では、成熟した卵胞が排卵されずに留まってしまう状態を卵胞うっ滞と呼びます。
今回はそんなトカゲ類における卵胞うっ滞について獣医師が解説します。

1:ペットにおけるトカゲ
 近年、日本における爬虫類飼育の需要は増加しているとされています。
 環境省よりこんなデータが発表されています。(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/tekisei/h29_10/mat02_02.pdf)
  ・2016年を起点に徐々に爬虫類の生体輸入量が増加している。
  ・カメ目は減少傾向にあり、代わりにトカゲ亜目やヘビ目は増加し続けている。
  ・トカゲ亜目は2018年から爬虫類の中で最も輸入量が多く、2021年は2016年の3倍ほどとなっている。
  ・WWFの2017年爬虫類市場調査ではトカゲ亜目(43%)、カメ目(28%)、ヘビ目(24%)であった。
  ・アニコム「家庭どうぶつ白書2021」より、飼育されている爬虫類の中では71.1%がヒョウモントカゲモドキで、18.9%がフトアゴヒゲトカゲであった。
 とされています。これは特定の企業の統計なので、日本における爬虫類飼育のすべてを反映しているわけではないと思いますが、日々診療を行っていても同様の印象を
 受けます。
 これらのデータからも、日本におけるトカゲ類の人気が伺われます。

2:トカゲの繁殖生理・解剖
 ほとんどのトカゲは卵生(卵を産んで、卵の中である程度発育してから孵化する方法)です。トカゲの雌性生殖器は一対の卵巣と卵管を持っています。卵巣はブドウの房状をしており、大体腎臓と同じような位置(腰部背側)にあることがほとんどです。卵巣には卵管が伸びており、卵巣から排卵された成熟卵胞は、卵管を通って総排泄腔より排卵されます。卵管では卵殻基質(いわゆる白身)や卵殻を形成し、総排泄腔へ送り届ける輸送路の役割を担っています。
 トカゲの種類にもよりますが、現在本邦で飼育されているトカゲで数の多いヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲは11月から12月頃から発情が始まることが多いです。交配後約1-2カ月程度で産卵することが多いようです。飼育されている爬虫類は、単独飼育を行っていることが多く、交配するチャンスが無いこともありますが、多くのトカゲで無精卵を生む可能性があることが言われています。冬頃に突然お腹が膨れてきて、元気があるのに食欲が落ちてくるようであれば、卵を持っている可能性があります。

3:卵胞うっ滞とは
3-1:病態
卵胞うっ滞とはいわゆる卵詰まりの一種とされており、「卵巣にある発育した卵胞が卵管に移動せずに卵巣にとどまってしまっている状態」を指します。臨床症状がある子もいれば、ない子もいます。通常は排卵されない卵胞はそのまま吸収されてしまいますが、排卵もされず、吸収もされない場合は卵胞うっ滞となります。20241016_061923104_iOS.heic 

3-2:原因
   卵胞うっ滞の原因は完全には解明されていないと言われています。一般的には不適切な飼育や食事などによるストレス、交配相手の存在、など多因子性と言われています。
卵胞が吸収されず残ってしまった場合、卵巣と卵胞の長期的な炎症が高頻度で起こることが知られています。これは爬虫類が持っているサルモネラ菌が(Sallmonella spp、)感染することも知られています。炎症が起こっている卵胞は時に体内で破れることによって、卵黄が体腔内に漏れ出ることがあります。これにより腹膜炎を起こすことがあり(卵黄性腹膜炎)、卵黄のビテリンというタンパク質はとても刺激性が強く、腹膜炎は重症化しやすいです。
 この卵黄性腹膜炎は運動や無理な触診によっても引き起こされます。

3-3:診断
 症状やその個体の病歴、身体検査などから推測をすることがほとんどです。
 症状は、卵胞うっ滞特異的なものはあまりありません。多くの場合、食欲不振、腹部膨満(お腹が腫れている)、傾眠などが挙げられます。
 実施する検査としては、血液検査・Xレントゲン検査・超音波検査を実施します。
   血液検査:文献ではアルブミン、カルシウム、リン、トリグリセリドが上昇する
         ことが多いとのことでした。
        経験的にはグロブリンも高値を示すことがあります。
        食べれていない時間が長いと肝リピドーシスに陥ります。そのため、
        肝臓の数値が上昇していたり、コレステロール値や中性脂肪の値が
        高くなることがあります。
   レントゲン検査:特に異常所見は認められません。
   超音波検査:腹腔内に成熟した卵胞が認められます。

3-4:治療
通常は、重篤な症状が認められない症例では食事療法や飼育の見直しによって産卵が正常に進むかを見ていきます。正常なトカゲでも1-2か月は卵を持っていることが多いので、経過は長く観察していくことが多いです。正常に産卵されることもあれば、卵巣が退縮していくこともあります。
重篤な症状の場合、外科手術による卵巣卵管摘出術のみとなっています。
ただ、外科手術の場合そのまま亡くなってしまうリスクもあります。当院では、分院長の芝﨑を中心として、卵胞うっ滞の内科治療を試みております。まだまだ症例数も少なく適応も不明な部分が多いですが、興味のある方がいらっしゃったらぜひ当院までご連絡ください。

3-5:予後
手術によって比較的良好な経過をたどりますが、体腔炎などが起きている場合は積極的な支持療法(点滴や注射、強制給餌など)とともに外科手術を実施しないと予後が悪いことが知られています。

4:まとめ
  ・近年エキゾチックペットの需要は増えており、爬虫類ではトカゲの飼育数が多いとデータがあります。
  ・卵胞うっ滞は比較的よくある病気ですが、不明な点も多いです。
  ・検査は、卵胞を持っている以外に問題ないことを確認します。
  ・有効な治療は今のところ外科手術のみです。
  ・命の危険にかかわる病気でもあるので注意が必要です。
  ・環境ストレスがかかわっている可能性が高いので環境を整えてあげましょう。
   わからない場合は動物病院や信頼できるペットショップさんに連絡してみてください。




セキセイインコの卵塞症(卵詰まり)

鳥類は発情を繰り返すことによって様々な病気を引き起こす事があります。中でも卵詰まり(卵塞症)は有名で、時に命を落としてしまう事もある恐ろしい病気です。
セキセイインコは日本でも飼育羽数が多く、発情も繰り返しやすいため問題になりやすいです。
今回はそんなセキセイインコの卵塞症について獣医師が解説します。


1:セキセイインコの生態
1-1:セキセイインコとは
 セキセイインコはオウム目インコ科セキセイインコ属に分類される飼育鳥で、飼育や繁殖が他の種類に比べて容易で人気も高い鳥種です。元々はオーストラリアの乾燥地帯の低木・開けた森林・草原に生息している。基本は群れを形成し、巣は樹洞を利用し、植物の種子を食べる穀食性です。
セキセイインコの生殖器の構造
 犬や猫などの哺乳類は一対の子宮・卵巣からなりますが、鳥類の雌性生殖器の構造は、基本的に左側のみの卵巣と卵管からなります。右側は退縮してしまい、機能していません。
1-2:セキセインコの繁殖生理
 繁殖には発情期(繁殖行動〜抱卵前)、産卵期(抱卵)、非発情期(卵巣の活動が停止する時期、通常は秋〜冬or乾季)からなります。
 発情期は光条件、温度条件、発情相手の存在、巣の存在、栄養状態などによって決まり、季節によって変動するのが通常ですが、これらの条件が安定していると通年で発情します。発情は通常年に2回、一回の産卵数は4-6個が多いようです。産卵は卵が作られてから24時間以内に産卵されます。セキセインコのオウム類は一日おきに産卵することが多いです。
 繁殖に最も大事な栄養素はビタミンD(Vit D)とカルシウム(Ca)です。
 
2:セキセインコの卵塞症
2-1:卵塞症とは
 卵塞症とは卵が触知されてから24時間以上経過したものを卵塞症と診断します。通常、卵は1つの事が多いですが2つ卵が詰まっていることもあります。
 卵塞症の中には卵停滞(機能的な異常)と、難産(物理的な異常)に分けられることもあります。 
2-2:卵塞症の原因
卵塞症の原因は様々なものがあると言われていますが、主なものは下記の通りになります。
  低カルシウム(Ca)血症は卵塞症の原因となりやすいと考えられています。偏っていた、あるいは不適切な食事を摂取することによってCaが不足することがあります。そうすると、子宮の筋肉が動かしづらかったり、神経性のトラブルも起こしたりしやすいですし、卵の殻も柔らかくなってしまい、子宮の筋肉が問題なかったとしても体の外に押し出しづらくなってしまいます。
初産での発症が多く、ビタミン剤やミネラル材を与えられておらず、日光浴もしていないと、知らず知らずのうちにCa不足に陥っているケースが多いです。栄養もそうですが、日々の習慣に日光浴や運動もしっかりと取り入れていきましょう。


卵塞症の主な原因  
1 低Ca血症による子宮収縮不全
2 卵形成異常(低Ca血症含む)
3 環境ストレスによる産卵機構停止
4 何らかの原因による卵管口閉塞
 

2-3:卵塞症の診断
 卵塞症の症状は、典型的なものだと、腹部腫大(おなかが腫れている)元気消失(急に床にうずくまる、羽を膨らませる、眠たそうにするなど)・食欲不振・いきみなどがあります。低Ca血症、もしくは卵による坐骨神経の圧迫で足が麻痺してしまったり、卵管脱を起こしてしまったりする子もいます。重症例になると、卵が詰まってしまった痛みでショック状態になってしまう子もいます。このような症状が認められた場合、卵塞症かもしれないので、最寄りのセキセイインコさんを診れる病院へすぐに連絡しましょう。
 診断は、卵を触知してから24時間以上経過している場合、もしくはいきみや痛みでのショック状態の子が卵塞症と診断されます。熟練すれば触診のみでの診断も可能ですが、通常はレントゲン検査や時に超音波検査を使用し、診断を下します。
2-4:卵塞症の治療
 卵塞症は基本的に命の危険にかかわるのと、状態が悪く、緊急処置が必要な子が多いです。
 治療法としては
 ① カルシウム剤の注射
 ② 用手圧迫排卵処置
 ③ 帝王切開
 の3種類があります。一般的にイメージする卵塞症の治療といえば②の用手圧迫排卵だと思います。しかし、多くの子が低Ca血症を持っている可能性を考慮すると、Ca剤を投与せずに処置をするリスクの方が高いと考えられています。なので、卵塞症と診断をした場合、基本的にはまずCa剤の注射での投与を行っています。
 ①のCa剤投与を行っても産卵しない場合に、②の用手圧迫排卵を行います。こちらの処置もリスクはありますので獣医師も慎重に行っていきます。もし卵の殻が割れてしまった場合、基本的には卵の殻が自然に排出されるまで待つのですが、稀に中身が逆行してしまい、体の中に卵黄が入ってしまうパターンがあります。そうすると、卵黄性腹膜炎(卵の黄身が体の中で強い炎症を引き起こしてしまう状態)になり、命の危険にかかわる場合があります。
 どうしても卵の摘出が困難な場合は全身麻酔をかけ、お腹を切って摘出を行います。その場合、今後の予防のためにも卵管も同時に摘出します
2-4:卵塞症の予防
卵塞症の予防には、
 ①環境改善(内服薬、注射薬、ダイエットなど)
 ②適切な飼養管理
  ・適度な運動を行う事
  ・適切な栄養を与えること(ビタミン・ミネラル)
  ・日光浴を行う事
 ③繰り返す場合は外科手術
 になります。外科手術の場合は、卵管摘出術によって卵管を取り除くことによって産卵を防ぐことができます。しかし、卵巣を摘出することは困難なので発情を起こすホルモンは残っており、発情は繰り返されます。手術後も油断せずに発情コントロールをしっかりとしましょう。
 
2-5:卵塞症の予後
卵塞症は発症しても元気にいてくれる子もいれば、命の危険にさらされる子も居ます。お腹が膨らんでいる、元気が無いなどの気になる症状があったらすぐに動物病院を受診しましょう。
 
3:まとめ
 ・鳥類は繰り返す発情によるトラブルが多い。
特に初産に多く、栄養的な偏りが問題になることが多い。
 ・卵が確認されてから24時間以内に産卵されなければ卵塞症として診断される。
 ・治療は、①Ca剤の注射②用手圧迫排卵法③帝王切開 の3パターンある。
 ・予防は、①発情抑制②適切な飼養管理③外科手術による卵管摘出 の3パターンある。
 ・命の危険もあるので、異常を感じたらすぐに最寄りの鳥を診療できる動物病院を受診してください。


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