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セキセイインコの卵塞症(卵詰まり)

鳥類は発情を繰り返すことによって様々な病気を引き起こす事があります。中でも卵詰まり(卵塞症)は有名で、時に命を落としてしまう事もある恐ろしい病気です。
セキセイインコは日本でも飼育羽数が多く、発情も繰り返しやすいため問題になりやすいです。
今回はそんなセキセイインコの卵塞症について獣医師が解説します。


1:セキセイインコの生態
1-1:セキセイインコとは
 セキセイインコはオウム目インコ科セキセイインコ属に分類される飼育鳥で、飼育や繁殖が他の種類に比べて容易で人気も高い鳥種です。元々はオーストラリアの乾燥地帯の低木・開けた森林・草原に生息している。基本は群れを形成し、巣は樹洞を利用し、植物の種子を食べる穀食性です。
セキセイインコの生殖器の構造
 犬や猫などの哺乳類は一対の子宮・卵巣からなりますが、鳥類の雌性生殖器の構造は、基本的に左側のみの卵巣と卵管からなります。右側は退縮してしまい、機能していません。
1-2:セキセインコの繁殖生理
 繁殖には発情期(繁殖行動〜抱卵前)、産卵期(抱卵)、非発情期(卵巣の活動が停止する時期、通常は秋〜冬or乾季)からなります。
 発情期は光条件、温度条件、発情相手の存在、巣の存在、栄養状態などによって決まり、季節によって変動するのが通常ですが、これらの条件が安定していると通年で発情します。発情は通常年に2回、一回の産卵数は4-6個が多いようです。産卵は卵が作られてから24時間以内に産卵されます。セキセインコのオウム類は一日おきに産卵することが多いです。
 繁殖に最も大事な栄養素はビタミンD(Vit D)とカルシウム(Ca)です。
 
2:セキセインコの卵塞症
2-1:卵塞症とは
 卵塞症とは卵が触知されてから24時間以上経過したものを卵塞症と診断します。通常、卵は1つの事が多いですが2つ卵が詰まっていることもあります。
 卵塞症の中には卵停滞(機能的な異常)と、難産(物理的な異常)に分けられることもあります。 
2-2:卵塞症の原因
卵塞症の原因は様々なものがあると言われていますが、主なものは下記の通りになります。
  低カルシウム(Ca)血症は卵塞症の原因となりやすいと考えられています。偏っていた、あるいは不適切な食事を摂取することによってCaが不足することがあります。そうすると、子宮の筋肉が動かしづらかったり、神経性のトラブルも起こしたりしやすいですし、卵の殻も柔らかくなってしまい、子宮の筋肉が問題なかったとしても体の外に押し出しづらくなってしまいます。
初産での発症が多く、ビタミン剤やミネラル材を与えられておらず、日光浴もしていないと、知らず知らずのうちにCa不足に陥っているケースが多いです。栄養もそうですが、日々の習慣に日光浴や運動もしっかりと取り入れていきましょう。


卵塞症の主な原因  
1 低Ca血症による子宮収縮不全
2 卵形成異常(低Ca血症含む)
3 環境ストレスによる産卵機構停止
4 何らかの原因による卵管口閉塞
 

2-3:卵塞症の診断
 卵塞症の症状は、典型的なものだと、腹部腫大(おなかが腫れている)元気消失(急に床にうずくまる、羽を膨らませる、眠たそうにするなど)・食欲不振・いきみなどがあります。低Ca血症、もしくは卵による坐骨神経の圧迫で足が麻痺してしまったり、卵管脱を起こしてしまったりする子もいます。重症例になると、卵が詰まってしまった痛みでショック状態になってしまう子もいます。このような症状が認められた場合、卵塞症かもしれないので、最寄りのセキセイインコさんを診れる病院へすぐに連絡しましょう。
 診断は、卵を触知してから24時間以上経過している場合、もしくはいきみや痛みでのショック状態の子が卵塞症と診断されます。熟練すれば触診のみでの診断も可能ですが、通常はレントゲン検査や時に超音波検査を使用し、診断を下します。
2-4:卵塞症の治療
 卵塞症は基本的に命の危険にかかわるのと、状態が悪く、緊急処置が必要な子が多いです。
 治療法としては
 ① カルシウム剤の注射
 ② 用手圧迫排卵処置
 ③ 帝王切開
 の3種類があります。一般的にイメージする卵塞症の治療といえば②の用手圧迫排卵だと思います。しかし、多くの子が低Ca血症を持っている可能性を考慮すると、Ca剤を投与せずに処置をするリスクの方が高いと考えられています。なので、卵塞症と診断をした場合、基本的にはまずCa剤の注射での投与を行っています。
 ①のCa剤投与を行っても産卵しない場合に、②の用手圧迫排卵を行います。こちらの処置もリスクはありますので獣医師も慎重に行っていきます。もし卵の殻が割れてしまった場合、基本的には卵の殻が自然に排出されるまで待つのですが、稀に中身が逆行してしまい、体の中に卵黄が入ってしまうパターンがあります。そうすると、卵黄性腹膜炎(卵の黄身が体の中で強い炎症を引き起こしてしまう状態)になり、命の危険にかかわる場合があります。
 どうしても卵の摘出が困難な場合は全身麻酔をかけ、お腹を切って摘出を行います。その場合、今後の予防のためにも卵管も同時に摘出します
2-4:卵塞症の予防
卵塞症の予防には、
 ①環境改善(内服薬、注射薬、ダイエットなど)
 ②適切な飼養管理
  ・適度な運動を行う事
  ・適切な栄養を与えること(ビタミン・ミネラル)
  ・日光浴を行う事
 ③繰り返す場合は外科手術
 になります。外科手術の場合は、卵管摘出術によって卵管を取り除くことによって産卵を防ぐことができます。しかし、卵巣を摘出することは困難なので発情を起こすホルモンは残っており、発情は繰り返されます。手術後も油断せずに発情コントロールをしっかりとしましょう。
 
2-5:卵塞症の予後
卵塞症は発症しても元気にいてくれる子もいれば、命の危険にさらされる子も居ます。お腹が膨らんでいる、元気が無いなどの気になる症状があったらすぐに動物病院を受診しましょう。
 
3:まとめ
 ・鳥類は繰り返す発情によるトラブルが多い。
特に初産に多く、栄養的な偏りが問題になることが多い。
 ・卵が確認されてから24時間以内に産卵されなければ卵塞症として診断される。
 ・治療は、①Ca剤の注射②用手圧迫排卵法③帝王切開 の3パターンある。
 ・予防は、①発情抑制②適切な飼養管理③外科手術による卵管摘出 の3パターンある。
 ・命の危険もあるので、異常を感じたらすぐに最寄りの鳥を診療できる動物病院を受診してください。


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