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ブログ 2024年7月

猫の歯肉口内炎


 皆様は、猫の歯茎が赤く腫れているのは見た事がありますか?見たことがある人はイメージできると思いますし、それは歯肉炎で間違いないと思います。ただ、今回は名前にあるように歯肉口内炎です。歯肉炎のみではなく、口峡部(口腔の奥側)までが赤く腫れてしまう疾患のことを言います。最近では、尾側口内炎や口腔後部口内炎と呼ばれることが増えてきています。歯周病とは別疾患と区別されます。一般的に、歯肉口内炎に罹患した猫はその程度にもよりますが、QOLの低下が認められることが多いです。その理由としては強い疼痛が挙げられます。疼痛の影響で食事量や飲水量が減少し、体重減少および脱水を引き起こします。最終的には衰弱してしまい、高齢の子や病気持ちの子にとっては命取りになることも少なくありません。
 
 症状としては、口腔内の疼痛、流涎、出血、食事の際に顔を傾けて食べる、ぽろぽろドライフードをこぼす、ドライフードを食べずにウエットフードしか食べない、口をくちゃくちゃさせるなどがあります。
 
発症原因は現在も特定されていません。しかし、FIV(猫免疫不全ウイルス)/FeLV(猫白血病ウイルス)やカリシウイルス、様々な口腔内微生物の関与が疑われております。また、歯の周囲に増殖する微生物に対する過剰な自己免疫反応も原因と一つと考えられています。これらより、当疾患は単一の原因だけではなく、微生物とそれに関わる免疫の過剰反応により、複合的に引き起こされる疾患であると言えます。
 
 治療として第一に選択されるのは、麻酔下での抜歯です。症状が重度の症例は、全臼歯抜歯や全顎抜歯を行います。(全臼歯抜歯→切歯犬歯以外を抜歯すること、全顎抜歯→歯を全て抜歯すること)。何故抜歯が必要なのか?抜歯は可哀そうではないのか?と疑問を持たれる方も多いと思います。出来る限り我が子の歯を残してあげたいという気持ちも非常に良く分かります。ただその思いで残していた歯が、負の方向に働いてしまうこともあるのです。そもそも原因が口腔内微生物にあると考えられているため、口腔内微生物が新在する環境では再発してしまいます。歯が存在する限り、歯の表面や歯周ポケット内など歯の周囲に付着し続けてしまいのです。一度クリーニングしたとしてもすぐに再付着してしまう為、根本の解決にはなりません。そのため、口腔内微生物の数を減らすために根本解決として歯の除去、要するに抜歯が必要になるのです。治癒率としては、統計上全臼歯抜歯で60-70%、全顎抜歯では80-95%となります。ただ5-10%の症例では術後も完治することなく、内科療法を併用していかなければならない場合もあります。
 一方で、麻酔がかけられない子には内科療法による対症療法が選択されます。この時に一番大切なのは、内科療法ではいつか治療に限界が来てしまうことを理解しておくことです。使用される薬剤としては、ステロイド薬や抗菌薬、免疫抑制剤等があります。特にステロイド薬は、抗炎症や鎮痛として最も効果が見られます。しかし、効果がある反面副作用が多くあるのも事実です。そのため、麻酔処置が可能な子は、麻酔下での処置を勧めさせて頂くことになります。
 

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上記は猫の歯肉炎の写真です。(上顎の歯肉の赤くなっている部分)
歯肉口内炎は、この炎症が口峡部でも起こります。
 
 
猫の歯肉口内炎は歯周病と違い、歯の残根(歯が折れて、歯根が残ってしまうこと)が治癒の妨げになりかねません。当院では処置後に歯科用レントゲンを撮ることで、残根した歯が無いことを確認し手術を終えます。もしも、皆様の家族の一員である猫さんにこのような炎症があったり、食事をとりづらそう等の症状がありましたら一度診察を受けることをお勧め致します。

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